自分は、選ばれなかった側でした。
例年恒例になったOrlando Balletとのコラボ企画「Chroeographers ShowCase」。双方の有志が集まり、その中から振付をする人と踊る人に分かれて個別に作品を持ち寄ります。
普段は出演する側の人間が、別の人を振付するというチャレンジを後押しする目的で考えられたショーケースです。振付希望者は、同じく有志で集まったメンバーからキャスティングをする所から作品創作が始まります。
自分は毎年ここに出演しており、今年も踊る側として手を挙げました。
出演内容は「全身黒ずくめ」の道具係
自分に任せられた仕事は「巨大な人形をステージ上で持つ」というものでした。衣装は全身黒ずくめ。頭部が目立たないようにフードの付いたパーカーを着用しての出演です。
自分が人形を持っている間にも他のダンサー達は華麗に踊ります。音に合わせて身体を動かします。彼らは身体で表現をしています。
本音を言えば踊りたかった。でも選ばれなかったのにはちゃんと理由があるんです。
ダンサーとサーカスアーティストの違い
蓋を開けてみると、シルクドソレイユ側からの出演者は僅かに5名のみ。しかも皆が1つだけの出演でした。一方でOrlando Balletの出演者は2つ3つの掛けもちが当たり前。Orlando Balletのダンサーだけで構成されていた作品も少なくありません。
ではなぜOrlando Balletのダンサーは振付家に人気で、シルクドソレイユのアーティストは人気が無いのでしょうか。それは求められる価値の違いにありました。
まずシルクドソレイユ側の出演者は皆ダンサーではありません。サーカス専門のアクロバッターです。たしかに世界レベルの技や並外れた空中感覚を持ち合わせてはいます。しかしダンサーとしてのレベルは決して高くありません。むしろプロのダンサー集団であるOrlando Balletの出演者と比べるのもお門違いです。
ではアクロバッターとダンサーの違いとは何か。以前、舞台で「存在感」がないのは論外である:情熱と「存在感」の関係性という記事を書きました。ここでいう存在感を出せるポイントが両者では全く違うのです。
ダンサーは踊っている時、そしてアクロバッターはアクロバットをしている時が最も存在感を発揮する。当然と言えば当然です。ダンサーはステージに出ている全ての瞬間で踊っています。身体をステージに置くだけで踊りが始まるのです。
しかしアクロバッターは意図的に実施しなければ技は出せません。つまり存在感を出せる瞬間が圧倒的にダンサーよりも少ないのです。
踊れるか?=市場価値に等しい
出演者は振付家にキャスティングされます。性別、能力、そして有用性。全ての裁量は振付家のサジ加減一つにかかっています。作品のために、当然のように彼らは妥協せずに人材を選抜します。
するとここに「市場」が生まれます。
使える人材にはラブコールが集中し、いまいちの人材には声すらかからない。残酷なまでに一定の価値基準で「選ばれる・選ばれない」が決定してしまう。そしてその基準とは踊れるかどうか?に大きな比重があるのです。
振付には素材が思い通りに動いてくれるのが理想。揃えろと言えば揃う、こう動けと言えばその通りに動ける。止まれと言えば止まれて、感情だってこめられる。ダンサーとアクロバッターが比べられた時、どちらに軍配があがるかは明らかなのです。
しかもダンサーならステージ上で常に存在感を出し続けられる。アーティストで存在感を出し続けられる人はごく一握り。ここにも両者の市場価値が広がってしまう原因があります。
市場に求められるか?が大切
アーティストの名誉の為に言うと、彼らも普段のショーでは素晴らしい存在感を出す人ばかり。不思議とほぼ全員がキャラクターとして出演している人達でした。アクロバットは世界レベル。申し分ない才能の持ち主ばかりです。
しかし求められているモノが違ければ、世界レベルだろうが何の意味もありません。踊れる人材が必要な市場に、縄跳びが自在に操れる人材は必要ないのです。
今回のケースだと、自分の市場価値は最低ランクだったことでしょう。踊れるわけでも、秀でたアクロバットが出来るわけでもない。縄跳びが上手などという酷く限られた状況でしか活用できない人材ゆえ、人形を持つ仕事が回ってきたとしても文句は言えません。
反対にこれが縄跳びパフォーマンス公演だったとすれば、自分の市場価値はうなぎ上りだったことでしょう…。
たとえ世界レベルや唯一無二の能力があったとしても、飛び込む市場によっては価値が変化します。市場価値とは相対的なモノ。ゆえに絶対的に変化しない市場価値など存在しないのです。
あなたの価値は市場でどう評価されますか?
黒ずくめで人形を持つことにならないよう、しっかり見極めてください。
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