シルクドソレイユアーティストの日常

プロになる君へ。5年前の自身に宛てたメッセージ

Cast your bokeh to the wind

Photo By jamesjordan

プロとしてステージに立ち始めたのは2010年。あれから約2000回のショーへ出演し、大きな怪我も3回経験しました。

プロであることの大変さと同時に、勘違いや思い込みに苦しんだ5年間でもありました。今回はこれからプロになる当時の自分に対して、今だからこそ言えるメッセージを紹介したいと思います。

1.肩の力を抜け

君はプロであることに力みすぎている。「ショーに出るからには」とか「お金を払ってお客様が」とか、考え過ぎだ。もちろんお金をもらって縄跳びをしている以上はプロであろう。でもそれは毎日肩肘を張って仕事をするのとは意味が違う。

とかく君はプロセスを大切にしたがる。何をするにも然るべき練習や手順をふもうとする。努力を重ねようとする。でも土曜日のショーの後に夜中の1時過ぎまで練習をし続けるなんて、正気の沙汰ではない。

プロとは結果を出すのが仕事。プロセスにこだわり過ぎると身体や周囲を痛め付ける結果になる。ある日このツケが回ってくるのを忘れないで欲しい。

2.怪我をナメるな

縄跳び競技を8年間も続けた君にとって、三重跳びや四重跳びは朝飯前だろう。この程度なら大丈夫、という油断に足元をすくわれる。

技術的に簡単なのはわかった。四重跳びをショーでやるのにポリシーを持つのもいい。だが小学校で年間100回程度のパフォーマンスをやるのと、年間480回のショーをするのはワケが違う。身体へのダメージは以前より確実に積み重なっていくことを忘れてはいけない。

にも関わらず、君は練習を減らさない。そればかりは今まで通りのケア方法で何とかなると思っている。だからある日突然、故障で前回しすら出来なくなる。歩くことすら困難になる。長期の離脱を余儀なくされる。

縄跳びだからといって侮ってはいけない。
それを一番理解しているのは君ではなかったか?

3.失敗するけど、挑戦しろ

君はこれから5年間で多くの失敗をする。アクト中のミスは常に起こる。チームワークの問題にも巻き込まれることだろう。

アクトに限ったことだけじゃない。

キャラクターを目指して宙返りやクラウニングを練習するが、どちらも実らずに5年間が過ぎてしまう。ライバル達が階段を登っていくのを悔しい気持ちで眺める日が続く。

だが安心して欲しい。これらの失敗の全てが5年後に活きている。たとえば宙返りで学んだ知識からジャンプについて別視点の気づきを得る。それが5年後の縄跳びアクトに活かされている。

またクラウニングの練習を経て、君は数えきれないほどの知恵を授かるだろう。結果として5年間でキャラクターには辿りつけなかった。しかし縄跳びアーティストとしての新たな境地はシッカリと見えている。

面倒臭がってはいけない。英語に億劫しているヒマはない。毎日顔を合わせるうちは気付かないが、師匠のBaltoやThomasと過ごせる時間は少ないのだ。

まとめ

ステージに立つこと、そしてプロであること。

「プロとはかくあるべき」という思い込みが先行し必要以上の重圧を生み出してしまいました。時には自らプレッシャーを掛けることも必要でしょう。しかし人生の一部としてショーに出演するにはやり過ぎでした。

肩に力の入った状態でショーに望んだ結果、相対的に「周囲が手を抜いているのでは?」という疑念にも駆られました。もちろん、そんなことはありません。1人で勝手にハイパーな重圧を生み出し背負っていただけなのです。いま思い返せば、さぞかし面倒くさい同僚だったことでしょう。

過ぎたるは及ばざるが如し。練習でも自負でも行き過ぎた行為には反動がくる。

プロになった5年前の自身に掛けたいメッセージが、ここに集約されています。