シルクドソレイユアーティストの日常

ラヌーバ「なわとびアクト変革計画」 最終章 ~ラヌーバにダブルダッチを迎える~

なわとびアクト変革計画もついに最終章。

これまで「キャラクター」「トライアングル」と二つの柱を変革を行ってきた。
そして13日(木)の1stショーでついに三本目の柱、
ダブルダッチがラヌーバに迎え入れられた。

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守秘義務の関係でずーーっと書けなかったけど、
もうショーで実際に披露してるから晴れて堂々と書ける。

まぁそれはそれは嬉しい瞬間だったわけで。

コーチという貴重な経験

最後の変革によって自分が得たものは、大きな経験だった。

シルクドソレイユでは通常、「専門家」がショーで演技を行う。
体操選手がタンブリングをやったり、鉄棒やったり、
サーカス学校の出身者が空中ブランコをやったり。

当然といえば当然だ。

でもなわとびのアクトに限っては例外である。
これは極めて稀なことで、
他のアーティストを巻き込んで演技を構成するのだ。

三本目の変革計画でダブルダッチをやろう!って話が持ち上がった時、
新しい縄跳びアーティストを入れるのかな?なんて淡い期待を抱いた。
でも残念ながらそんなことはなく、
他に専門を持っているアーティストをイチから育て、ダブルダッチの演技を行うことになった。

縄跳びアクトには他にも長縄やトライアングルと呼ばれる演技があるが、
これらも全て専門外のアーティストが担当している。
自分たちソリストが全く手を付けないで演技が完結するのだ。

ダブルダッチに関しては跳ぶパートこそソリストが担当するが、
縄を回すのは他のアーティスト。
別のアクトだったら考えられないが、彼らはダブルダッチ経験ゼロからスタートする。

★★

以前の記事で紹介したが、ダブルダッチは縄を回すのが難しい。
縄の如何によっては演技の成功失敗を左右する。

ディレクターの意向によりソリストは中で跳ぶ。
よって他のアーティストが縄を回し、その中で自分たちが跳ぶ。
こりゃしっかり縄回しを練習しないとヤバイ。

いろいろ考えた。
なわとび教室の時の学習指導案とかも引っ張りだした。
映像もけっこうな数を見た。
プレイブックなんか、何年ぶりに開いただろうか。

前の記事で書いたように、15分トレーニングのメニューを考えるのも必死だ。
何しろディレクターに丸投げされてるからね。
まぁ信頼してくれてるんだよね?ってポジティブに捉えつつ(笑)

だけど結果として、「丸投げ」をしてもらったことにより、
トレーニングの舵取り、アーティストとのコミュニケーションなど、
本番のステージに向けて演技を創りあげる過程をガッツリ経験することができた。

しかも実際にシルクドソレイユのステージで披露されるなんて、
そうそう出来る経験じゃない。

同時に感じる危機感

晴れて本番で披露の日。
偶然にも創設者のギー・ラリベルテが客席にいるっていう緊張要素も加わったが、
無事にノーミスの演技を披露することができた。
さすがは本番に強い仲間たちだ。

さらに嬉しい事に演技中に観客からの反応もあり、
ディレクターも満足した様子で変革の最後の柱は無事に完了した。

だがこれは同時に、
なわとびアーティストの一人としては危機感を覚える。

★★

考えてみると、ダブルダッチをアクトに取り入れるにあたり、
創る方にも演じる方にもダブルダッチの専門家が関わっていない。
たしかに最初の1周間はAdriennが居たが、彼女もダブルダッチは自分たちと同レベル。

それでもいま、こうしてショーでダブルダッチを披露している事実。

これはダブルダッチ専門家の仕事を奪っていることを意味する。

いまラヌーバでやっている演技は、
同じくシルクドソレイユに出演したカプリオールの演技と比べたら、
もちろん天と地ほどの差がある。

だが、
ちゃんと教えれば、専門外のアーティストでもダブルダッチできるんじゃね?
というこの会社の認識こそが、多大な意味を持っている。

ここは体操選手をサーカスアーティストに育て上げるシステムを確立した会社だ。
専門外の人であっても教えられると認識されてしまえば、
まったくダブルダッチの経験が無い人にも、出演のチャンスを奪われる可能性がある。

なわとびアーティストの「専門性」とは何なのか。
そう簡単には素人に習得できない絶対的なモノとは何なのか。

いま一度、しっかり考える必要があるのではないだろうか。