シルクドソレイユアーティストの日常

習慣化した遊びが想定外の「出世」をもたらしたアーティストの物語。

今回は、Showの中である意味ちゃっかり?だけど、着実に進んでる男のお話。

La Noubaに限らず、

シルクドゥソレイユのShowでは【バックアップ】というシステムがある。

生身の人間がShowをするのだから怪我もするし、体調不良にもなる。場合によっては家庭の事情によって帰国する場合もある。そういう事態に備えて、バックアップとして同じ役割の出来る人を同じShowの出演者で準備しておく。

もちろんバックアップのアーティストも普段は自分のメインアクトがある。基本、自分の仕事をする。んでいざって時、もしくはローテーションの時以外はバックアップは登場しない。

ダブルキャストとは少し意味が違う。ダブルキャストの場合は片方が出演しているときは別の役割をしたり、休憩をしたりするけど、バックアップの場合は常時自分のメインがあって、緊急事態のみの出演。

ただしあまりにも期間が開いてしまうとバックアップも仕事を忘れてしまうので、ローテーションという形で月に1度か2ヶ月に1度ぐらいバックアップが出演する日も設けてある。

シルクドゥソレイユの作った、実に上手いシステムだ。

バックアップの募集は必要に応じて、という感じで行われる。

自分も以前、運良くLes Consのバックアップオーディションに招いてもらったけど、いつ募集されるか・誰が呼ばれるかはタイミング次第。契約を更新しないアーティストの関係でバックアップが求められる時は何となく予想が付くけど、それもいつ辞めるかなんて分からない。

だからこそ、チャンスを掴むのは運次第だ。

つい最近もとある事情により、

キャラクターのバックアップ枠が1つ空いた。

関係する人でオーディションをして、ある男性アーティストが選ばれたらしい。

彼はアクロバット専門でキャラクターをするには十分な資質を持っていると思われた。

しかし不運にも、彼のトレーニングは上手く行かない。

専門と近いアクロバットだったので周囲は直ぐにでもバックアップとしてデビューできるかと期待していたが、現実は甘くなかった。

結局トレーニングの時間が増え続け、彼を怪我にまで追い込んでしまう。

一度ならまだしも、複数回の中期間アウトを余儀なくされた。

彼が練習しているのを日々見ていたので、こちらまで切ない気持ちになってしまう。

しかし追い討ちを掛けるように、別のアーティストがバックアップの練習を始めた。悲しいかな、彼の怪我の回復を待つこともShowの運営面から限界に達したのだろう。

彼の替わりにトレーニングを始めたアーティストは、実は専門が違う。ShowとShowの間、Between Showと呼ばれる時間に今回のキャラクターに必要となる専門性の練習をしていた。

しかしそれは意図した練習ではなく、趣味の範囲だった。

もしかすると彼の中で、どこかこのポジションを狙う思いがあったのかもしれない。だがLa Noubaに来た当初、彼はPemporaryという短期契約のアーティストだったのだ。彼自身の専門で要求される技能が満たせなかったのが理由らしい。合計して3回ほどShowに出演しては離れることを繰り返していた。

今年に入って契約更新をしないアーティストがShowを離れ、ようやく彼はPermanentと呼ばれる定期契約を手に入れた。つい先日の話だ。

彼は短期契約時代から専門外の練習を頻繁にするアーティストだった。気付けば動いており、日々のトレーニングを欠かさないイメージ。加えてShowで求められる技能の練習にも全力で取り組んでいた。

彼のこんな様子を、見ている人がいたのだ。

前出の専門の近いアーティストが第一候補ではあったが、運命のめぐり合わせにより彼は今回のチャンスを手にすることが出来たのだ。必死に練習をしたから、だけではない。

彼の習慣が新しい仕事へ進むための「鍵」をもたらしたのだ。

Showでのチャンスはいつやってくるか、誰にも分からない。

悲しい話、今回のように誰かの怪我や不可抗力によって、別の人へチャンスが渡る場合もありえる。

さていざチャンスが来たときにどうするか、それは明日かもしれないし数年後かもしれない。

もしかすると自分が思っていたようなチャンスは永久に回ってこないかもしれない。

しかし、習慣を身に着けていることで、見ている人は絶対にいる。

今回チャンスを掴んだ彼も、最初はきっとLa NoubaでのPermanent契約をもらうことを目指していたとはずだ。そのためのトレーニングも全力で行ったに違いない。晴れて契約を手にした彼が習慣をおろそかにせず、仮に本人が遊びのつもりであったとしても、続けたことが大きかった。

【遊び】のつもりで取り組んでいたことが、

いつ【仕事】【チャンス】にめぐり合わせてくれるか。

どう転ぶかなんて、誰にも分からないものだ。