シルクドソレイユはショーのDVDをいくつも販売しています。
世界を回るツアーショーは順番にDVDになり、一部の作品を除いたショーを映像で見ることが出来ます。
自分が出演するラヌーバも2002年にDVDになりました。残念ながら縄跳びとジャグリングのアクトは入っていませんが、ほぼ今と同じ演目を映像を通じてみることが出来ます。
このようにパフォーマンスが映像として収められていると、
「え、DVDになってるとお客さん減らない?」
「ステージで見なくても映像で良くない?」
という感想を耳にします。
ステージに立つ人間としては無条件でライブショーを見てほしいのですが、改めて映像とライブの違いを考えてみました。
映像とショーは、そもそも別作品である
映像はそれだけで1つの作品です。目の前で起こる現象をどのようにフィルムに収め、どう見せればより魅力的になるかを考え抜かれた作品なのです。
一方ライブショーは、そのモノが作品です。演技はもちろん、照明や音響、衣装に小道具、舞台装置など、そのショーを講演するために全ての準備がなされます。
ショーという題材を映像作品にしているのがDVD、ショーそのものを作品にするのがライブ。その意味では、ライブショーと映像はそもそも違う作品なのです。
映像は見るべきシーンを選んでくれる
では映像作品の良い所はなんでしょうか。それは、ショーのどこを見ればいいかをあらかじめ選定してくれる事にあると思います。
シルクドソレイユのショーは広いテントの中で縦横無尽に行われます。あっちで何かやって、こっちで何かやって、気付いた時には別の場所で何かが始まって。。。とても一度に全てを見ることが出来ません。
この点、映像は見せ場かをしっかり映してくれます。様々な角度、距離感、演技中の至近距離の表情まで見せてくれます。
最近はスーパースローを見せてくれる映像もありますよね。1秒にも満たない宙返りはパッと見ただけじゃ何回転してるか分かりません。そこにスローが入ると「あぁ…3回転もしてるんだ…」と感動が増す。
加えて再生も巻き戻しも自由です。気になった演目をもう一度見ることもできるし、つまらないと思ったアクト(悲)を早送りすることもできる。しかも何回見てもいつ見ても、安定したショーを見ることが出来るのです。
これらはライブでは生み出せない映像作品の強みと言えます。
ライブは個人体験である
一方、ライブは目の前で全てが行われます。アーティストの演技はもちろん、演奏、照明、舞台装置・・・全ての空間がこの時間の為に準備され行われています。なのでライブショーは、過去にも未来にも二度と同じものはあり得ない。○年○月○日のショーは、永久にこの瞬間しか訪れないものなのです。
また、映像と違ってショーの全てを見つくすことは到底できません。しかしこれは同時に、あなた自身に何を見るかを決める自由があることを意味します。映像に残らない、小さな小さな動きに注目する自由があるのです。
客席によっても見え方は大きく違いますよね。一最前列と最後部からでは、ショーの印象すら変わります。見えるものがそれだけ違うということです。
最前列なら、演技中のアーティストの表情や息遣いを感じることが出来ます。縄跳びアクトなら、空気を切る鋭く高い音も聞こえます。最後部ではこうした臨場感は少なくなりますが、後ろで演じるキャラクターや舞台装置の全てを見渡すことができます。
つまり、ふと気になって目にしたワンシーンは、あなたにしか訪れない極めて個人的な体験と言えるのです。
映像に「失敗」は収まりきらない
もう一つライブにしかない特徴があります。それは演技中の失敗。できれば失敗はしたくありませんが、時に失敗がショーを一段階上の体験へと押し上げてくれます。
縄跳びアクトでは、ラストの大技を失敗しても一度だけやり直すことになっています。ステージに立つ側としては失敗したくありません。一発で決めたいんです。でも失敗してしまった。もう一度やり直す。。。何とか2回目の挑戦で成功する。
この時、客席からは通常の5割増で歓声が沸き起こります。なぜなら「本当に難しいんだ」「失敗することもあるんだ」というリアリティが伝わるから。失敗で急激な臨場感が生まれ、客席とアーティストが一つになるのです。
ステージに立つのも同じ人間。ときには失敗するんだなぁ…という人間臭さ。これはライブショーならではの醍醐味です。
しかし、当然ながらこうしたアクシデントは映像作品には収まりません。映像はあくまで最高の状態のショーを収めているからです。
まとめ
自分もたまにDVDを引っ張り出してきて映像を見ることがあります。映像作品として美しいので、これはこれで好きなんですよね。しかし映像はあくまで映像の作品であって、ショーそのものではありません。
ショーの世界は見るだけじゃないんです。一人一人が体験するものなんです。まだ日本公演もやっていますので、是非ショーの世界を体験しに来てください。