サーカスのステージ上では言葉を使ったコミュニケーションをしない。だが一切コミュニケーションをしないというわけじゃなくて、身体を使ったやり取りが頻繁に行われている。
「バンッ!」ってやったら「うわぁーーー」リアクションしてくれる、みたいな。
それはアーティスト同士だけじゃなくて、自分たちは客席とも頻繁にコミュニケーションをしている。お客さんの反応を待つのもその1つで、お笑いで言えば笑い待ちみたいなもの。演技の流れはや振付は決まっているけど、観客とのコミュニケーションキャッチボールは自分たちのさじ加減1つ。コミュニケーションがいい感じだと客席と一心同体になれる。反対にうまく繋がらないとステージで孤独に縄跳びをしているかのような錯覚に陥る。あぁ今日はスベったなぁと。
技術や演技も大切だけど、このコミュニケーションが取れないアーティストは一流になれない。いくら一流の演技をしても客席にエナジーが届かないからだ。*1
この能力を伸ばすのに村田芳子先生の提唱するダンス教育の手法が有効だと思う。
- 作者: 村田芳子,山本俊彦,川口啓,五十嵐淳子
- 出版社/メーカー: 教育出版
- 発売日: 2001/01
- メディア: 単行本
- クリック: 3回
- この商品を含むブログを見る
コミュニケーションの糸
演技は決まった流れに沿って進行していく。だがたとえ決まった流れであってもリアリティを失うと一気に興ざめする。
普段からしゃべっている言葉もセリフに書き起こして何度もしゃべっているうちに、どうやったら自然な流れでしゃべれるかがわからなくなる。これは言葉以外でも同じでステージで反応しあって動くのも妙な不自然さが生まれやすい。すると瞬間的に観客の意識はステージから離れて行き、コミュニケーションの糸が途絶えてしまう。
コミュニケーションの糸は本当に細く脆い。油断すればすぐに切れてしまう。大胆に動いているように見えても、実際には繊細な意識を入れながら動いているのである。
同じトレーニングをしてる
村田芳子先生が授業でやる「割り箸」という教材がある。向かい合った二人が人差し指だけで割り箸を挟み、落とさないようにバランスを取りながら動く、という内容の教材である。
指だけで挟んだ割り箸はちょっとした事で落ちてしまう。相手が力を入れれば少し抜き、反対に力が弱くなってきたら押す。続けるうちに自然とリーダーとフォロワーが生まれ、面白いことに旗から見てもどちらがリードしているか分かるようになる。
この割り箸は目に見るようにしたコミュニケーションの糸。
実はシルクドソレイユも全く同じ内容のトレーニングを採用している。
さすがに割り箸じゃないけどww
他にも相手の体の一部触れながら動いていく「コンタクト・インプロヴィゼーション」や「新聞紙の動きを真似する」といった教材がトレーニングに採用されており、村田先生が取り入れているダンス教育の手法と面白いぐらいに一致する。
まとめ
新しい学習指導要領で中高生のダンスが必修になった。実はこの立役者こそ村田芳子先生だ。そして大学時代、自分の研究室の担当教官だったりもする。当時から村田先生のダンス教育についての話を聞いていて、まさかこの職場に来て同じトレーニングをするとは夢にも思わなかった。
- 作者: リン・ヒュワード,ジョン・U・ベーコン,有賀裕子
- 出版社/メーカー: ランダムハウス講談社
- 発売日: 2007/02/06
- メディア: 単行本
- クリック: 3回
- この商品を含むブログ (7件) を見る
一流のアスリートが一流のアーティストになれるとは限らないが、
一流のダンサーは間違いなく一流のアーティストになれる。
アーティストとしてステージを目指す人は是非、村田先生のダンス教育方法論を参考にしてみてほしい。
「技」だけではない、ステージに必要な「表現力」が身に着くと思う。
*1:エナジーとはステージから客席に伝わる力のこと。また別の機会で詳しく紹介しようと思う。