つい先日書いた記事に、縄跳び仲間からツッコミが入った。
採点競技としての縄跳び競技の課題、内向きから外向きのルールへ – なわとび1本で何でもできるのだこうして意見をくれるのは嬉しい事。
縄跳びをよくしていこう!っていう気持ちの現われだから、賛成・反対は関係ない。
特にこのツッコミに対してはちゃんと返答した方がいいと感じた。
だってお互いに真剣にやりあってこそ、意見のやりあいに意味があるから。
んでもって、論点になったのは「動きの質」について。
今回はやや専門的な視点を交えながら、
なんで「いい動き」と言われるのか、を考察していきたい。
まずツッコミの文章を紹介。
2012~2014の世界大会ルール改正で要求項目が大幅に減ったのは、指摘の通り演技の幅を広げるためです。
ただ、競技である以上ある程度選手の演技が似るのは仕方がないと思います。フィギュアスケートでも一部で大会ごとの点数に差があるという指摘があるそうなのですが、あまり質を項目に入れると審査員で点数が変わる可能性があります。そこをうまく訓練できたとしても、その統一された質以外の考えを排除してしまいます。
そのあたりはパフォーマンスの大会に譲って、競技はあくまでも、誰が採点しても同じ結果になることを重視した方が良いのではないかというのが私の意見です。長文失礼しました。〜全文抜粋〜
いい動きに必要とされる3つの要素
いい動きには3つの要素が必要だと言われている。
「運動の合理性」「運動の効率性」「運動の経済性」の3つだ。
最初の2つはなんとなくイメージしてもらえると思うけど、
運動の経済性については少し説明が必要かな。
一見すると造語のようだけど学問で使われる用語。
Googleさんに聞いてもこのページしかヒットしなかった。
ざっくり説明すると、
運動が熟達するにつれて無駄な部分が削ぎ落とされて合理化・効率化されること。
たとえばダブルダッチのスピード。
あれって高速で縄を回すのがすごい大変。
一度経験すればしんどさがわかると思う。
でも不思議なことに、ある程度練習を積んでいくとそこまで疲れなくなる。
しかもトップのチームのターニングを見てると結構みんなが似た回し方をしている。
もちろん教えてもらったことを的確に実践しているだけかもしれないが、それだけじゃない。
何とかしてラクに回したい!!!
ってのが重要だ。
サボれってことじゃなくて、
同じスピードでも、どうやれば力を使わずラクに回せるか。
これが運動の効率化だ。
運動の効率化は「基本」とされる動きに集約されてることが多くて、
たとえばベーシックターニングでも、楕円よりも綺麗な円形の方がいいとされている。
楕円を描くと歪みが生じるからって言われてるけど、実はそれだけじゃなくて
縄に対して一番効率よく力を加えられるからだ。
そして効率化された動きは合理的な動きとも言える。
動きそのものが理にかなってるってことね。
たとえば高校生体操選手が成功した「シライ(伸身後方宙返り4回ひねり)」って新技。
捻っている瞬間、彼の両足は綺麗に閉じている。
なぜなら少しでも開けば回転が遅れ、捻りきれないからだ。
物理の得意な人なら「慣性モーメント」っていえば通じるかな。
フィギュアスケートの回転でも最後は身体を縮めて回転数を上げるでしょ?
あれと同じ原理。これが運動が合理的ってやつ。
さていよいよ経済性。
経済的って言うと、なんかお得なカンジがするよね。
割引とか節約なんて言葉が近いかもしれない。
運動の効率化・合理化と経済性は時系列になっていて、
効率化・合理化が進むと、徐々に力を使わなくても良い動きが出来るようになる。
ダブルダッチの4重回しで上手な人と初心者を比べれば一目瞭然じゃないかな。
腕力で回しているのか、ピンポイントに縄に力を加えられているか。
言わずもがな後者が運動の経済性が良いってことになる。
こうした動きはダブルダッチや縄跳びにかぎらず、
すべてのスポーツに言えることだ。
さらに続くのが運動の経済性が良いと、動きが美しくなる。
だから体操競技とかフィギュアスケートの演技は多くの人が美しいって感じるし、
ある意味シルクドソレイユのパフォーマンスにも通じる。
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少し話がそれたけど、
つまり運動の経済性が良い動きが、すなわち「質の高い動き」ってことになるし、
採点競技において評価する基準の一つになるのだ。
じゃ、どうやって評価するの?
ざっくりだけど運動の経済性についてはご理解いただけたと思う。
じゃ次は、どうやってこれを客観的に評価するか。
結論から言えば、
頑張って基準を言語化するのだ。
たとえば体操競技の場合、
「つま先まで伸ばす」ってのが評価基準に入っている。
別につま先を伸ばさなくても、宙返りをバシバシできればよくね?って話もある。
じゃなんでわざわざ「つま先」なんて細かい基準を入れたかというと、
つま先を伸ばすことに「文化的な背景」と「技術的な背景」があるから。
文化的って言うと難しそうに聞こえるけど、ようはみんなが、
「つま先伸びてると綺麗だよね!!」
に、賛同してくれるかどうか。
過去に東洋では中腰姿が美しいとされてた時代があって、今でも歌舞伎とか能に残ってる。
西洋では宮廷舞踊で今のバレエの動きが生まれて、手足を伸ばした立ち姿が美しいとされた。
どっちが美しいなんて優劣じゃないけど、スポーツの世界では西洋の「美」が一般的になってる。
技術的なことだと、つま先を伸ばすことで「ふくらはぎ」に力が入り、膝が伸びやすくなる。
引いては「全身の締め」が上手にできることに繋がるのだ。
体操競技では演技中、身体が締まっていることが技術的に望ましいとされていて、
熟練した選手だとつま先までしっかり意識して締められている。
つま先はその判断基準の一つってわけ。
まぁなんで締まってるのがいいかは…専門の人に聞いてください。
(※)空中分解を防ぐとか回転力を失わないこととかに関係するらしい
こうした紆余曲折があって、質が評価できる基準を頑張って言語化していくのだ。
きっと同じことが、他の採点競技でも行われてきたはず。
いい動きは時代とともに変化するのか?
これは難しい質問で、全く変化しないといえば嘘になる。
しかし基本的には変化しないんじゃないかなって自分は思う。
というのも、変化するのではなく進化するものだと思うからだ。
スポーツの動きは時に、革命的な人によって進化する。
走り高跳びの背面跳びが代表的な例で、あんな跳び方をしたのは当時として衝撃的だったらしい。
しかし実際に目にした多くの国の人が「いい動きだ!」って認識して、
今となっては当たり前のように行われてる。
でも、背面跳びが運動の経済性や合理性・効率性に反してたらどうだっただろう?
まぁ変な跳び方してるね、、、って一蹴されて、ここまでスタンダードにはならなかったはず。
専門的に練習している人が見ても「いい動き」だったからこそ、今も残っているのだ。
じゃ採点競技の場合はどうなるか。
こちらも同じなんだと思う。
中にはフィギュアスケートのバックフリップのように禁止されちゃうこともあるけど、
ベースにある「いい動き」の基準はそう変わらない。
「表現力」と「いい動き」の関係性について
今回の縄跳び仲間からのツッコミで一番の相違点になったのがここだと思う。
表現力ってやつと、いい動きの違いについて。
今更だけど、先に上げた記事の内容だと誤解されても仕方ないし、
縄跳び仲間のツッコミも一理あると思う。
でも本当に言いたかったのは、
反応や拍手を評価することじゃなく、
技そのものの質を評価するルールになってほしいってことだった。
たしかにツッコミのように、
お客さんへのアピールや「表現力」ってやつをルールで規定しちゃったら、評価基準が曖昧になる。
審判ごとの差も出てしまう。
そうじゃなくて「いい動き」ってのは難易度と平行する形で評価して欲しいのだ。
質(低) | 質(高) | |
難易度(低) | 1点 | 2点 |
難易度(高) | 2点 | 4点 |
まぁざっくりすぎるけど、こんなイメージ。
難しい技をやっても、質がイマイチなら点数は出ません、ってこと。
一応いまのルールでも「激しい着地はダメ」って書いてあるはずだけど、
これだけじゃ不十分だ。
なんとか言語化して「いい動き」ってのを評価していかないと。
乱暴な言い方だけど、いまのルールは「縄跳びさえ通過すればOK」っていう印象が強い。
多少姿勢が崩れても、縄跳びさえ接触せずに通過すればミスにはならない。
だから「いい動き」をする選手が上位に行くとは限らないし、
多くの選手の演技を「無理矢理でも縄跳びを通過させる!」って方向に推し進めてる。
まとめ
「いい動き」って一言で言っても、誰が見てもいい動きってわけじゃない。
採点競技では技術的な知識を持った上で、熟練度を測る意味で使われる。
だからパッと見で「あっちの選手のほうが面白かった!!」っていうのは、やや論点がずれている。
もしかすると拍手や反応が良かったのかもしれないけど、
好き嫌いで評価をしてしまえば、それこそ癒着だのなんだのって言われちゃう。
公平性を保つ上でも、運動の経済性・運動の効率性・運動の合理性の3つに基づいた「いい動き」を評価するのだ。
ってな感じで色々書いてきたけど、
改めて自分自身の考えもまとめることができて良かった。
ちゃんと勉強している人や、各スポーツの専門の人にとってはツッコミどころ満載なんだと思う。
本当はちゃんと文献を読みなおして説明するべきなんだけど、
全部日本の実家においてきてしまったのでご勘弁を…。
大学時代のノート、もう一回読み直したいな。
ではではー。