世界にはスゴイ縄跳び選手が沢山いる。
中でもアメリカ人の演技はアクロバティックで圧巻だ。
見た目に派手なアメリカの演技、
でも実は、派手さの裏に厳しい現実がある。
今回はややデリケートな、
「縄跳びのアクロバット」を取り上げようと思う。
アメリカスタイルの縄跳び
まずは有名な彼の演技を見てもらいたい。
(※)1分10秒ぐらいから始まります
彼の名前はNick Woodard。
World Jump Ropeという世界選手権でのチャンピオンだ。
アクロバットと言えばNickと言われるだけあり、
このレベルで演技ができるのは世界でも彼だけだろう。
演技中に何個もの宙返りを入れていて、全ての回転中に縄を通している。
そして1分27秒ぐらいでやってる「Kamikaze Flog」という逆立ちの技は、世界で彼しかできない。
Nickのようなアクロバットを全面で押してくるのは「アメリカ」が得意とするスタイルだ。
映像の演技は1人のものだけど、ダブルダッチでもゴリゴリのアクロバットを入れてくる。
個人的に「アメリカスタイル」と呼んでいる。
アメリカスタイルの強み
演技を見てもらえばわかる通り、派手でウケがいい。
宙返りをガンガンしてるし逆立ちとかバク転とか、もはや縄跳びの域を超えている。
まずアメリカスタイルの強みはここだ。
とにかくウケがいい。
この演技をそのまま「ハーフタイムショー」とかでやったら、爆裂に盛り上がると思う。
そして競技でも強い。
なぜならアクロバット技は総じて難易度が高いからだ。
普通の宙返りだけでも「5段階中の3」で、捻ったり大目に縄を回せばあっという間い「最高レベル」だ。
逆立ちも縄跳びの通し方を工夫すれば、簡単に「5段階中3」や「5段階中4」が取れる。
比較として2重とびは「5段階中1」で3重跳びは「5段階中2」だ。
(※)本当は細かい規定があるけどあくまで目安として
アメリカスタイルは最強か?
観客の盛り上がり、ウケ、そして競技での強さ。
こう見てくる限り「アメリカスタイル」は最強にも見える。
だが弱点もある。
冷静に考えてほしい。
マットも無い固い床で宙返りを繰り返したらどうなるだろう?
体操競技やトランポリンのような跳ねる床や柔らかいマットの上ではない。
一部の例外の選手もいるが、そう、
多くの選手が怪我に悩まされるのだ。
かく言う自分も怪我に悩まされた選手の1人だ。
第6回の世界選手権の時のこと。
長距離移動の疲れや緊張が重なり「宙返りで思いっきり頭から落下」した。
本人は宙返りをしたところまでは記憶があるが、脳震盪を起こしてその後の事を覚えていない。
気が付いた時には救急車で病院に運ばれる直前、
そしてまたすぐに気を失い記憶が飛んだ。
幸い、打ち所と落ち方がよかったので頭蓋骨にヒビが入っただけで済んだが、
一歩間違えれば「死」や「植物状態」にもなっていた。
これが落下して2日後の大会映像。
最初の部分で宙返りをする予定だったけど、さすがに変更してこうなった。
事情を知ってるとなんか複雑な気持ちでしょ?(笑)
またこの世界選手権から帰った1週間後。
とあるパフォーマンスで、同じく宙返りの着地に失敗し、
今度は「右膝の前十字靭帯完全断裂」の大怪我をした。
この怪我のせいで全日本選手権、アジア選手権出場を逃し、
貴重な競技人生の期間を棒に振った。
シルクドソレイユは知っている
サーカス集団であるシルクドソレイユは、
当然のことながらアメリカスタイルの縄跳びを知っている。
半月板損傷で手術をした時も、バックアップ候補としてアメリカ人の縄跳び選手を何人か上げていたし。
じゃ、なんでアメリカ選手はあまりショーに出ていないのか。それは、
専門ゆえに「アメリカスタイル」の危険性を知っているのだ
過去、ディレクターに「宙返りの技を入れたい」と相談したことがあった。
しかし答えは「NO」、
理由は危険性だった。
この仕事は週5日、10回のショーを行う。
1回のダメージは少ないかもしれない。しかし、
固い床での宙返りを続けるのは危険すぎると念を押された
実は既にラヌーバの縄跳びアクトには「宙返り」をする場面がある。
だがそれはあくまで宙返り専門のアーティストの役割で、
しかも彼らは定期的にローテーションで負担を分散している。
宙返りのスペシャリストであるアーティスト達。
さらに彼らへの負担を分散するためローテーションをしているにも関わらず、
縄跳びアクトでのアクロバットによる怪我は絶えない。
それだけ固い床でのアクロバットは危険であり、
怪我をする可能性が高いのだ。
長年の経験を積んだスペシャリストであっても怪我をしてしまう過酷な条件、
たとえ縄跳びのスペシャリストとはいえ、
宙返りのスペシャリストでない自分達が怪我をするのは火を見るより明らかだ。
ここでは「拾う力」が求められる
最後は自分が感じていることだけど、
シルクドソレイユの縄跳びソリストは「拾う力」が重視されるように思う。
(※)「拾う」とは「縄跳びを人の動きに合わせて通過させる」こと。
もちろん「ソロ演技をする力」は必要だ。存在感だって要る。しかし、
実際のステージでは人に合わせたり、縄跳びを通したりと言った「拾う動き」が殆ど。
うちらがソロで跳ぶのはカウントで言うと「12×8」、
時間にすれば1分前後である。
これ以外の時間は全て、「合わせる」「揃える」といった「拾う力」が求められる構成だ。
まとめ
アクロバットができれば派手でウケが良いし、自分も憧れる。
だがこの場所で限って言えば、
「アクロバットの危険性」と「求められる力の違い」により、
世界最強のアメリカ選手であっても、活躍の場が広がりにくい現実がある。
もしあなたが縄跳びでシルクドソレイユを目指すのであれば、
アクロバット以外の技術をしっかり磨く方が近道だろう。
って、そんな人あんま居ないよね(笑)
ではではー。