シルクドソレイユに来てスグ、何度か本気で叱られました。
普段は遊び心たっぷりの職場ですが「ここはダメ」というポイントは暗黙に決まっているのです。
ラヌーバに来た当初、右も左も英語もわからないままでデビューしました。縄跳びの演技は求められた水準に達していたかもしれません。しかしショーで共に働くアーティストとしては半人前でした。
今回はシルクドソレイユに入って1年以内に本気で叱られたエピソードから、この会社が大切にしているポイントを紹介したいと思います。
「お偉いさんが観てるよ!」と冗談で言った
ある日、お忍びで社長のギー・ラリベルテがショーを観に来ていました。年に一度はオフィシャルで観劇に来るのですが、たまにお忍びで来ることがあります。
というのも、ギーさんが観てるとなればアーティストは否応なしに緊張するから。彼は緊張した社長向けのショーではなく、普段のショーを観ることの価値があると考えているのです。
ただ・・・彼がいつも座る席が決まってるんですよ。しかもあれだけオーラのある人ならステージからでも十分に気付くわけで。
縄跳びアクトはショーの一番最初。この日も、自分たちが真っ先にギーさんの存在に気付きました。アクト後、バックステージで何気なく「ギー・ラリベルテが観に来てるよ!」と近くにいたアーティストに話してしまった。
これが間違いでした。
アーティストにも気にしないタイプと、過度の緊張で良い演技が出来なくなってしまうタイプが居るのです。偶然にもそこで話をしたのが後者のタイプ。
「あなたが余計なことを言ったせいで力んでしまうじゃないか。」
「本番で良い演技が出来ずに問題が起きたら責任取れるのか?」
もう言い返す言葉がありませんでした。自分は誰が観ていても特に気にならないタイプですが、アーティストによっては繊細な人も居るんだと学びました。
あれ以降、客席に誰かが見えても一切口外することは無くなりました。たとえ冗談でも仕事の邪魔をすることは許されないのです。
「バンジー、、、怖いんだよね!」
自分たちは2か月間モントリオールでトレーニングを受けました。
メインは縄跳びでしたが、同時に縄跳び以外の役割の練習もします。自分たちに割り振られた役の1つに「バンジー」というのがありました。
簡単に言えばバンジージャンプです。ゴムを付けられてステージ上のバーから20mから落下。そのまま戻って来てバーを再び掴むという単純な役割です。
単純とはいえ高所。冗談のつもりで「バンジー・・・怖いんだよね!」とコーチにつぶやいた瞬間、
「本気で怖いなら今すぐに練習を辞める」
「高所に順応が必要なら時間を設けるから言ってくれ」
真剣でマジな回答が返ってきました。
焦って冗談だと伝えると、
「冗談であってもそれは良くない」
「シルクドソレイユでは安全を最優先している。」
「高所では常に危険を意識しなければいけないんだ。」
低い声ですごい形相。
これ以降はバンジーの冗談を言うことは無くなりました。あれだけの空中演技をしているシルクドソレイユゆえ、高所の危険性は誰よりも熟知し敏感なのです。
高所が怖いということは安全性を欠くことを意味します。たとえ冗談であっても安全性を脅かすことはあってはならないのです。
「・・・」←何も言わない
ラヌーバに来た当初、英語が全くしゃべれませんでした。
モントリオール時代は通訳さんが付いてくれましたが、デビューしてからは完全に放置プレイ。何とか英語でコミュニケーションをしなければなりません。喋れないだけでなく、リスニングもおぼつかない。同僚が何を言っているか理解するのも一苦労でした。
すると頻繁に黙り込むようになってしまいました。相手の言葉に対して反応できない。黙り込んで何も言えないず、ただ笑っているだけ、、、
こんな様子を見た同僚のアーティストが、
「お前は何をしにここに来たんだ?」
「俺はアクロバットをしに来ている。だからアクロバットの意見をちゃんという。」
「縄跳びをしに来てるなら、お前もしっかり縄跳びについて意見を言え」
英語がしゃべれないとか関係ありません。上手じゃなくても良いから意思や意見を出せ!!という叱責でした。何しろショーで縄跳びのアーティストは自分たちだけ。皆は協力こそしてくれますが、自分たちは率先して意見を出す立場にあったのです。
誰も流暢な英語を求めているわけではなく、縄跳びアーティストとしての意見を求めていたんです。「Fast」「More」「Down」などの単語で十分。何よりステージを創り上げるメンバーでコミュニケーションを取ることが重要だったのです。
いまも英語は得意ではありませんが、たとえ文章が滅茶苦茶でも伝えようとする意思が重要なのだと学びました。
まとめ
今回紹介した叱られエピソードはホンの一握り。小さいモノから大きいモノまで、探せばいくらでもあります。何なら、つい先日も叱られたばかりです。
叱られる時、背後には相手の「プロとして譲れないポイント」がしっかりと見えています。お互いの尊重なしにはショーが成り立たない。ゆえに厳しい言葉で叱ってくれるのです。
これからも、時に叱られた言葉を受け止めながら、時に叱る立場として厳しい言葉を掛けながら、明日のステージに向かいたいと思います。
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