シルクドソレイユに入団する

シルクドソレイユの縄跳びアクト変遷を分析して、次に「求められる人材」を考えてみた

こんにちはー。
縄跳びパフォーマーの粕尾将一(@macchan8130)です。

シルクドソレイユで縄跳びアクトが誕生してから、来年20年が経ちます。

縄跳びは伝統サーカスでも古くから使われた演目で、シルクドソレイユでは1996年に創作された「キダム*1」で初めてアクトが誕生しました。

キダム以降、ドラリオン、そしてラヌーバと縄跳びアクトが順番に誕生しています。今回はこれらの縄跳びアクトの変遷と背景を推察しながら、次にシルクドソレイユが求める人材について考えてみたいと思います。

※あくまで粕尾将一の個人的な見解です。あしからず。

キダム:総合商社

Skipping QUIDAM – YouTube

キダムは縄跳びアクトの総合商社です。ダブルダッチあり、単縄あり、長縄あり、チャイホ以外ほぼ全てのジャンルがあると言っても過言じゃありません。さらにNORIさん*2の力でダブルダッチのレベルが飛躍的に上がり、常にアクトの可能性を押し拡げ続けてきました。

キダムのアクトの特徴は、ソリスト以外にも縄跳びアーティストが居ること。パンフレットを見ると分かるんですが、ソリストの2名以外にも「出演演目:Skipping Ropes」と書かれたアーティストが沢山います。

縄跳びアクトが出演演目に入るということは、アクトの専門家であることを意味します。つまり、ここは責任が発生するんです。これは結構重要なことで、後に説明するラヌーバとの大きな違いです。

ドラリオン:伝統回帰

Skipping Ropes. Cirque du Soleil, Dralion – YouTube

1999年に開演した「ドラリオン」は、キダムとは全く毛色の違う縄跳びアクトでした。これは伝統サーカスで頻繁に見られる大縄の中でアクロバットをするスタイルです。

よって厳密に言えば縄跳びアーティストが居ません。みんな他の専門アクトがあり、垣根を超えてメンバーが集結し演技をしている。よって縄跳びに特化した技術や知識がある人はいません。というか、ここに「縄跳び専門」は必要ないんですよ。それでも成り立ち、完結しているサーカス縄跳びの典型例です。

ザイア:複合キャラクター

‫حصري ومن رفعي A tribute to Zaia by Cirque Du Soleil‬‎ – YouTube

こちらは知らない人が多いと思いますが、2008年に開演したマカオの常設ショー「ザイア」にも縄跳びがありました。映像の3’00頃に出てくるので、瞬き厳禁です!!

出演していたのは、以前一緒にラヌーバで演技をした「Thomas」です。彼は縄跳びを使うキャラクターとしてザイアに出演していました。しかしザイアに縄跳びアクトはありません。Thomasはあくまでキャラクターとして縄跳びをするのみ。また縄跳び以外にも様々な役割があり、縄跳びだけに特化した演技はほとんどありませんでした。

厳密にいうと縄跳びアクトとは少しズレますが、一つの方向性として挙げておきます。

ラヌーバ:ソロの挑戦

La Nouba – Summary video – YouTube

自分が出演しているラヌーバです。2010年から縄跳びアクトがショーに加わりました。

ラヌーバの縄跳びアクトにはソリストが2名。ぱっと見はキダムの演目と似ていますよね。でも大きく違うのが「出演演目:Skipping Ropes」なのはソリストの2名だけ。他のアーティストはあくまで「手伝っている」立場なんですよね。

よってキダムのように定期的な練習はありません。またアクトへの責任もキダムとは違ってきます。

ダブルダッチの新しい風

Cirque du Soleil ALLAVITA! – YouTube

新しくダブルダッチという風穴を開けたカプリオール。彼らが新しい風をシルクドソレイユに持ち込んできました。

◆参考記事
業界常識の壁をぶち破れ!「カプリオール」がシルクドソレイユの門前払いをこじ開けた|なわとび1本で何でもできるのだ

これは一つの大きな流れで、これまでソリスト=単縄の人ばかりが抜擢されてきた歴史を覆しました。

またダブルダッチが入ったのには、もう一つ大きな歴史的な意味があります。それはアクトに出ているのが全て「専門家」であること。キダムもラヌーバも、縄跳び以外の専門を持つアーティストの力を借りて構成されていました。しかしダブルダッチではカプリオールの演技だけで完結する。周囲に参加しているアーティストもいますが、主としてロープに関わらず、技術的な負担がないのです。

次に何が来るか?

さて、こんな感じでシルクドソレイユでこれまで扱ってきた縄跳びアクトを列挙してきました。では将来的に、どのようなアクトと人材が求められるでしょうか。これまでの歴史を踏まえて推理してみたいと思います。

アクトに関わる人数で見る変遷

まずアクトにメインで関わるメンバーの変遷を追ってみましょう。

  • キダム:ソリスト2名、他にも10名弱のアーティスト
  • ドラリオン:専門のアーティストゼロ
  • ラヌーバ:ソリスト2名、他のアーティストは「補助」関与
  • ダブルダッチ:カプリオールが出演したショーでは5名

ここで注目したいのは「メイン」としてアクトに関与しているアーティストの人数。というのも、責任には経費が掛かることを意味するからです。メインとして出演アーティストが多ければ多いほど、アクトに必要な経費が増えていきます。

この中で一番メインが少ないのは「ドラリオン」。ここではソリストを置かないで演技をする方式だったからです。次に少ないのがラヌーバ。キダムと同じ形式に見えますが、メインとして出演している人数は厳密には2名のみです。そしてキダム、ダブルダッチの順に人数が増えていきます。

これを整理すると、

ドラリオン < ラヌーバ < キダム < ダブルダッチ

の順になります。

アクト同士の影響

次に考えたいのはアクト同士の影響について。自分はキダムがほぼ全てのアクトに影響を与えていると考えています。

ラヌーバで縄跳びアクトができたとき、間違いなくキダムの影響を受けて構成されました。唯一キダムと違う点はメインになるアーティストの人数のみ。ここで「他のHouse Tromp*3に全面的な関与をさせず、ソリスト2名でアクトは作れないか?」という試みだったと自分は想像しています。

この試みが成功したら、縄跳びのソリスト2名だけでアクトが完結できる。いわば「もっともエコな縄跳びアクト」の可能性が生まれたのです。とはいえ、ラヌーバの試みがどのような評価だったかは分かりません。

次に影響を受けたのはダブルダッチです。ダブルダッチはキダムでも扱われていて、構成上最も盛り上がるパートの一つです。ここから「ダブルダッチに特化したアクトを作ってみてはどうか?」という試みが生まれたと想像できます。5名でのアクトは過去最多人数です。ですが「他のアーティストへの負担が限りなく少ない」という点でメリットがあります。キダムやラヌーバでは、他のアーティストに技術的な負担をしてもらっていますからね…。

これらをまとめると、

○キダム => ラヌーバ
ソリスト2名だけでアクトができないか?

○キダム => ダブルダッチ
ダブルダッチだけで完結するアクトができないか?

という変遷があったと推理しています。

まだ試されていない可能性はどこか?

結論です。次にシルクドソレイユが試みるであろう可能性がどこにあるかを考えてみます。自分は以下の三つを可能性として予測しています。

  • 単縄の集団
  • ダブルダッチと単縄の複合
  • 完全な個人

これまでシルクドソレイユでは「縄跳びの専門家だけ」の演技を作ったことがありません。キダムでもラヌーバでもソリストが2名だけでしたからね。ここに来て、ダブルダッチで専門家だけで完結するアクトの可能性が見出されました。この流れから「単縄のアーティストを沢山使った演技もできんじゃね?」と想像されても不思議ではありません。

ただ集団演技には人数分だけコストがかかります。最大でもカプリオールと同じ5名完結が求められることでしょう。大人数でのシンクロや複合技ができますが、5名でどこまでコスパに答えられるかは未知数です。

次は単縄とダブルダッチの融合です。これまでも「パワートラック&トランポリン」のように類似したアクトを合体した例がいくつもあります。同じ流れを汲めば「ダブルダッチ」と「単縄」を融合するアイディアは生まれます。

ここで課題になるのは「いかに融合するか?」に尽きると思います。ダブルダッチ=Japanese Styleがシルク内のスタンダード。このスタンダードと単縄がどのように融合できるか。日本では良くも悪くも、それぞれが独立して発展してきました。ただ一緒のステージに立っているだけではなく、綺麗に溶け合っている状態が求められる。これが大きな課題になると思います。

三つ目は「ソロ」です。もう完全な個人。コストで言えば最少人数なので、もっともエコな試みです。過去に「ザイア」でキャラクターとして縄跳びをした前例がありますしね。

ただ、ここに可能性を見出すか・・・?には疑問が残ります。というのも「縄跳び1人」でどれだけ魅せられるかの前例が無いからです。圧倒的な存在感と演技、それこそジャンルの垣根を越えて評価されるような演技が求められます。また「キャラクター」として縄跳びが入るにも、アクティングや表現力、舞台上での存在感など、縄跳びプラスアルファで求められることが沢山。ザイアの例では、Thomasが縄跳び以外にもアクロバットができたからこそ抜擢された、と考えるのが妥当かもしれません。

おわりに

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photo by Search Engine People Blog

つらつらと分析の流れを書いてきましたが、この分析には「シルクドソレイユが今後も縄跳びアクトを創る」という前提があります。また異種アクト同士の関係性やソロアーティストについての分析も、まだまだ不十分です。

それでもこうして一つの系統として流れを見ると、ちょっとだけ先を予測する参考になります。圧倒的な才能がある天才や、運よく巡りあわせて成功する人もいるでしょう。こうした人を脇目に指をくわえて見ているのは悔しい。そう思う人にって、相手の思考を探る武器として「分析」が使えます。

ちなみに、個人的にはダブルダッチと単縄の融合が来てほしいんですよねー。絶対面白いモノが生まれますから。

※あくまで粕尾将一の個人的な見解です。あしからず。

*1:キダム – Wikipedia

*2:自分の師匠

*3:大人数アクトに出演するアーティストの事。他のアクト中に別の役割として出演する