シルクドソレイユアーティストの日常

まず、形にする。課題はあとから嫌でも見るコトになるのだから。

「ボトムアップ」と「トップダウン」

こんなやり方があるんだと、素直に目から鱗だった。

建て方準備・土台敷き込み

ここ数日は日本への一時帰国の記事だったけど、
戻ってきましたよラヌーバに。

時差ぼけもさほどなく、無事にショーの日々に復活。
まぁ家に一人ぼっちで暇を持て余してるんだけどね。。。
(※)嫁と橙真は、もうしばらく日本に滞在

んでもって、
先週はラヌーバの縄跳びアクトにとって意味ある週にもなった。
自分のバックアップで1週間入ってくれていたAdriennが、
今週限りでコーチとして指導をしてくれたのだ!!

世界で教え歩いている彼女の指導法は、目から鱗。
似た考えやバックボーンを持っているからこそ興味深い。

練習の対象は初心者だよ?

指導内容の詳細は諸事情で書けないんだけど、
まぁチームワークが必要なパートを教えてもらったと認識してもらえば間違いない。

nasaと自分を交えて、複数人で演技をする。
この演技の構成や練習を、集中的にAdriennが教えてくれることになっている。

うちらは、ある程度の技術は持ってる。
でも自分たち以外は素人同然。
運動のカンは良いかもしれないが、縄跳びを扱うのとはまた別。

素人を交えて、かつショーに持っていくレベルの演技を構成する。
この状態でどうやってコーチングするのかって、すごい興味があった。

あれよ、あれよと進めていく

さぁどうするんだ?って感じの、
斜に構えた、嫌らしい目線で臨んだ初日。

けどお構いなしに、Adriennは初日からゴリゴリだった。
こう言っちゃアレだけど、ハッキリ言って無理矢理な構成。
きちんと基礎がある人ならともかく、
こんな構成をいきなり初心者にやらせるのか?!って目を疑った。

でもAdriennは止まることなく構成を作り続けて、
あっという間に構成が完成。

こんな状態でどうするんだ・・・?

と疑問は残りながらも。

★★

構成が出来上がってすぐ、今度は全体を通してみる。

「んなもん通るはずない・・・」

と、自分は相変わらず斜に構えた感じ。
確かに縄は通らなかった。しかし、

「何ができて、何ができないか」
「どこに問題があるのか」

この2つが一気に明白になった。
つまり、この後どうやって練習を進めていけば良いか、
その羅針盤が同時に出来上がっていたのだ。

自分はというと、
意表を突かれたような、拍子抜けしたような変な感覚。
ただはっきりしていたのは、
確実に前に進んだという実感。

「ボトムアップ」vs「トップダウン」

push ups

これまで自分は「基礎を作ってから、積み上げていく」という考え方にこだわってきた。
縄跳びに限らずどんなことにでもいえると思うけど、
基礎が無い状態で臨むのは、リスクが大きい。
アクロバットで言えば怪我の危険性や、命にもかかわる。

ところがどうだろうか。
今回、Adriennはまったく逆のやり方をした。

基礎が無いことを分かった上で、全体を見通せるように構成を作る。
もちろん失敗や上手くいかない部分が出てくるのは百も承知。
でも最初から失敗するのを考慮の中に入れて、
出てきた失敗は後で時間をかけて練習すればいい
という考え方。

基礎・基本を「ボトム」と表現するならば、
これまでの自分のやり方は「ボトムアップ」だ。
技術の安定性を求めるには適したやり方だけど、
一方で途方もない時間が必要になる。

反対に目標とする演技を「トップ」と表現すれば、
今回のAdriennのやり方は「トップダウン」だ。
最初に目標まで到達してしまって、その上で見つかった問題点に随所対応していく。
崩れる可能性はあるが、時間は圧倒的に少なくて済む。

★★

「ボトムアップ」と「トップダウン」は一概にどちらがいいとは言えない。

今回のケースではショーを目指して練習をした。
しかもAdriennがコーチをするのは1週間という期限付き。

たしかにショーに出すうえで、安定性や基礎があるに越したことは無いだろう。
だがここは学校ではない。今日も観客が観に来る、ショーの現場なのだ。

「トップダウン」というやり方は、ショーの実情にとてもよく合っている。
丁寧に基礎練習に時間をかけるだけが、トレーニングではないのだ。

時間も場所も有限、ときに、
基礎の「有り」「無し」はさほど重要じゃなくなる。

付け加えておくと、
Adriennはガッツリ競技の人なので、こと基礎基本には厳しい。
彼女の演技の美しさや優雅さは、絶対的な基礎力あってのこと。
だがそれはあくまで、「技術を身につけていく」考え方の1つでしかない。
彼女自身も、

「競技選手にはちゃんと基本から教えるけど、ここでは時間が無い」
「場所によって、求められるものが違うから」

傍からすると無謀に思えた今回の手法、
求められたものを正確に理解したAdriennの鋭さはさすがだった。

今回のAdriennの指導法は今後、
自分がコーチをする立場になったとき、
大切な視点の1つとしてしっかり覚えておきたい。